たまに困難事件に合います

 ご依頼者の依頼内容を裏付ける書類が揃っていて、請求する内容が法律的に明解な事件は、交渉や訴訟提起も難しくないことが多いです。

 ところが、たまに困難事件のご依頼があることがあります。

 裁判は基本的に証拠書類の信用性が高く、特に、権利内容などについて記載されて当事者が調印したような書類は「処分証書」(意思表示その他の法律行為が文書によってされた場合のその文書)と名付けられて、裁判所はそういう権利義務を直接証明する書類をとても重視します。そういう書類を重視することで判断がしやすくなり、精神的にも楽だし仕事もはかどることになるのだと思います。

 ところが、中には(特に高齢者など弱者の人は)騙されたり脅されたり言われるがまま信じたりして事実と違う書類に署名・押印させられて、そういう「処分証書」によって多大な財産を奪われそうになり、ご相談に来られることがあるのです。

 これは、存在する証拠と真実が全然異なるわけで、証明が極めて困難な事件となります。おそらく、裁判所や世間のルールとして、真実と違うのにその書類に署名・押印した人は不利益を受けても仕方がない、不利益を受けるのが当然だ、という前提ルールが存在すると思われます。確かに、ある程度そういうルールが存在しないと、契約書や領収書などの書類をもらう意味がなくなってしまいかねません。書類に署名・押印する前提として、その内容を理解して、慎重に行っているはずですし、そうすべきなんですね。(ただし、こうあるべきという「規範」と、事実はどうだったか、領収書の金額と同じ金額が現実に交付されたのかという「事実」とは、本当は別の問題ですが。)

 判断能力が弱った高齢者や気の弱い人は、悪質な人間に食い物にされて、言われるままに事実と異なる内容の書類に署名・押印をしてしまうことが現実にはあります。そういう人たちを裁判で救済するのはとても困難です。裁判官は、書類と違う主張をする人たちをほぼ「嘘つき」と決めつけている印象があります。それを覆すのは、とても難しいことがあります。

 私の場合は、ご依頼者からお話しを伺って、その内容が明らかに不合理でなければ、基本的にご依頼者の言っている内容が真実であるということを前提にしながら、裏付け証拠を探していきます。ご依頼者の言っている内容と証拠書類とが全然違うときは、どうして違うのかを丁寧に尋ねますし、それを合理的に説明できるような証拠がその書類の内容とか別の証言者から得られないかを探します。

 内容が不合理過ぎたり、証拠と違っているために、「あなたの言っていることは裁判所では認められない可能性が高いと思われます」という判断をしてご依頼を断ったり説得したりするのは、そうした調査をした後であって、それまではご依頼者を信じます。それは、無垢な人を救いもれをしないようにしたいからです。自分に都合がいいようにウソをついている人もいると思います。ですが、中には本当に真実を述べていて本来なら救われなければならない人がいて、そういう人を間違って助けられないことが怖いからです。刑事事件の弁護人もそういう思いの人は多いと思います。仮に裁判官に「無理な言い訳ばかりしてあの弁護人はバカじゃないか」と言われても、もし本当に無実の人で証拠が偽造されたものだったとしたら、その人をうっかりして救えなかったら、一生後悔すると思うのです。だから、基本的には、ご依頼者のために、真実を明らかにする証拠を一所懸命探します。

 以前受任した事件ですが、ひどい人たちにお金を貸してくれと言われて多額のお金を取られた上に、その人たちの保証人にさせられて資産に抵当権まで付けられたご依頼者がいました。そのご依頼は、担当していた弁護士が急死してしまったために引き継いだ事件なのですが、保証人にさせられた現実の貸付金よりも1000万円以上水増しされた領収書や借用書が2通ずつあり合計2500万円以上水増しされた書類が作成されていたのです。案の定、裁判所は、書類がある以上、そんな水増しがあったなんてウソだろうという態度です。その借用書は利息がないという借用書でしたので、「利息なしで金を貸すような事業者がいるわけがない。金額を水増ししているから利息がないんだ。」と主張しましたが、まったく取り上げてもらえませんでした。結局、その事件の関連で別の裁判所に同じ当事者の事件が係属していたので、別の裁判所で和解をして、半分以下の弁済で解決しました。主債務者に求償は事実上できません(金のない相手にカモにされていたのです)。裁判官の判断次第で裁判で負けるリスクがあったので、和解するしかありませんでした。どうして有利に和解できたのか。だました最初の加害者に協力・証言させたのです。最初の加害者もご依頼者から数百万円金を取っていっているのですが、その証言以外には、ウソの借用書等を作成させたことを証明する方法がなかったのです。とてもくやしいことだと思いますが、困難事件では、そういう厳しい決断をしなければならないことがあるのです。元々金を散々引っ張っていったあげくに保証人にさせて金を借りるような相手ですから、金がないので、その加害者から回収することは事実上ムリだったのです。それならむしろ味方にして証言してもらって、被害を最小限にするしかないということです。苦渋の決断です。おどしたりなだめたり、協力させるのはとても大変でした。その加害者が主債務者でしたので、借用書や貸金の領収書が水増しであることを証明すれば、自分の主債務も減るので、その点ではご依頼者と利益が一致していたのです。(なお、私は加害者の代理人にはなりませんでしたし、偽証も依頼していません。こういう相手に事実と違うことを証言するように依頼したりしたら一生それを元にして脅されますよね?そもそもそんなことを依頼したら、ケツをまくってしまいますよ。こういう相手はとても扱いが難しいんです。そんなバカなことをするわけがありませんが、世の中にはそういうギリギリの状況判断が理解できない人がいて、「適当にウソを言わせてるんだろう。」と決めつける人は、現実の現場を知らない軽薄な人だと思います。)

 世の中にはもっと困難な事件もあり、証拠が乏しい、法律的に難しい、というような困難事件を解決している他の弁護士のことをニュースなどで見ると、本当に感心します。手弁当で弁護団を組んで被害者救済にために頑張っている弁護士もいることを世の中の人には知ってほしいと思います。

 私も、とても困難と思われる事件でも、真実救われるべき人であれば、それを助け漏らすようなことがないように、後悔がないように、弁護士の業務をしたいと思っています。ですので、勝手にあきらめないで、弁護士を信頼して正直にすべて説明してみてください。

大槻経営法律事務所

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