カルテル課徴金の役員への転嫁についての論文の紹介

名古屋大学名誉教授の浜田道代先生の『カルテル課徴金の役員への転嫁に関する一考察-世紀東急工業株主代表訴訟を契機として-』(商事法務2023年2月25日号№2319)を読みました。

とても的確で大変優れた内容だと思いましたので、紹介します。

独占禁止法違反により課徴金を課せられた会社が、課徴金相当額の損害賠償を取締役に請求することが認められるか、ということについての、論文です。取締役ら役員が業務を行うについて善管注意義務に反して会社に損害を与えた場合、会社法上、当該役員らは会社に対して損害賠償責任を負い、その賠償請求を会社が行わない場合は株主が会社のために代表訴訟により損害賠償を請求できる(株主に払え、ではなくて、あくまでも「会社に対して払え」という請求です)ことになっています。独占禁止法違反により会社が課徴金を課せられた場合に、その全額を会社が役員らに請求して、会社自身(及び株主)はいわば責任を免れてしまうというのがいいのか?という問題意識だと思います。

特に、最近は、アクティビストといわれる投資家が、短期利益を求めて会社への要求行為を強めていることが散見され、そのような要求に対して日本の法律が適正な会社経営を保護できていないのではないか、という時代の潮流もあると思います。

会社が受けた課徴金を役員に転嫁することの弊害として、①役員に対する過剰な制裁になる(会社に対する課徴金は高額に設定されているし、役員はそれを負担すべきか?会社の責任を全部役員の責任とすべきか?等)、②役員賠償責任保険の誤作動(役員賠償責任保険でカバーされて会社の責任がなくなるのは、むしろモラルハザードを起こすのでは?)、③課徴金減免制度の運用への支障(責任を負うのであれば役員は徹底否認することになり、申告しないだろう)等が指摘されています。

そして、「会社(=株主)もまた報償責任・危険責任を負うべき立場にあることを勘案し、独禁法違反行為に関係した者と会社(=株主)との間で損害を適切に分担する結果となるように配慮しつつ、カルテル関与者の各々に対して各人の行為にふさわしい額の損害賠償責任を問うようにするのが適切であろう。」と結論しています。

以上の要約や感想は、私の個人的な考えによるもので、論文内容を正確に理解できていない部分もあるかも知れないことを予めお詫びしておきます。役員には法令遵守義務があるのだから、法令違反をしたらそれによる課徴金等はすべて役員が賠償責任を負うという単純な考えはないとは思いますが、よく考えてみる必要があるなと思います。

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