不祥事を防ぐには
弁護士が横領したというような不祥事がときどき報道されます。あるいは、企業内部で横領やキックバックなどの不祥事があったという事件なども報道されることがありますね。
不祥事を防ぐにはどうしたらいいでしょうか。私も弁護士の横領事件を見ると、個人的には「どうしてそんなことをしたんだろうか。直接話を聞いてみたい。」と思ったりするんですが、なかなかそのようような機会はありません。事件の相手方代理人になったときに「反社会的勢力っぽい依頼者の仕事をしているなぁ。」と感じる弁護士がその後に不祥事で懲戒を受けたり、横領して弁護士資格を失ったりしたという経験は複数あります。資金的に困ったり職業的倫理観が弱くなると、そういう事件の依頼を受けるようになるのでしょうか。それともそういう事件をやるようになって職業的倫理観が弱くなったりするんでしょうか。
不祥事は人が起こすものなので、それを防ぐには、①人の精神・姿勢・職業倫理などその人自身による防止、②内部統制などシステムとしての防止の両面が必要だと思います。
小規模な私の例で分かりやすく説明すると、まず、職業的倫理観やプライドというものはとても重要だと思っています。弁護士資格は試験に合格するまでにずいぶん大変だったのと、弁護士は社会的信頼が得られやすい職業という大きなメリットがあることを自覚している(証言を第三者の人にお願いすることがあるのですが、トラブルに巻き込まれることを恐れて断られることもよくありますが、証言は無償なのに協力してくれる人も沢山います。また、交渉や協議でも基本的に信頼していただいて話がスムーズに進むこともよくあります。信頼を得やすいからこそ、信頼を裏切ってはいけないと強く思っています。)ので、弁護士の資格を傷つけるようなことはしたくないと思っています。
また、「信用というのは日々の積み重ねで信用を得るのには時間がかかるが、失うのは一瞬」です。それだけに信用を失うようなことはしてはならないと考えています。ただ、この考えだと、一度信用を失うことがあると、プライドを失って自暴自棄になって、一気に不祥事に進むことがあります。ですから、先の言葉に続けて「だから、一度信用を失ったら、またコツコツと積み重ねるしかない」という言葉もセットにして、信用を失ったらコツコツと愚直にまた頑張るだけだと腹をくくっておく必要があると思います。
企業で言えば、こういう精神的な部分は、社風とか社是、処遇や社内教育が該当すると思います。従業員や経営者が、職業的プライドを失わないことが大切です。生活や仕事の乱れは、不祥事の芽だと警戒する必要があると思います。
次に内部統制などの不祥事防止システムですが、これは、一人の人に業務を独占させないとか、定期的な監査システムとか、風通しのいい社風で内部通報がされやすい雰囲気などが重要だと思います。私の事務所の例ですと、依頼者のお金を一時的に預かったり、後見人として被後見人の財産管理をしたりしていますが、通帳は事務員が管理し銀行印は私が管理しています。つまり、事務員も私も単独ではお金は出金できません。これは面倒なようですが、不祥事を防ぐシステムとしてあえて不便にしています。お金に関わる業務を単独でできてしまわないようにすることやチェックするシステムを組み込むことは重要だと思います。
定期的にちゃんとチェックすることも大切で、「不正をしてもいつかバレる。」と思ってもらうことが予防につながります。最近の裁判で、監査役の補助者が銀行預金の残高証明書のコピーを担当者からもらっていただけのチェックしかしておらず、残高証明書のコピーが偽造されたものだったため、多額の横領を見抜けなかった事例で、監査役の損害賠償義務が認められるかどうか争われているものがあります。ネットバンクだったようですが、ネットに接続してもらって取引履歴を確認するなどのチェックをする必要があったのではないかと思われます。
調査をいやがるそぶりを見せたり、「売上を上げてるのは俺たちだ!信用できないのか!お前らの調査は業務に差し支える!」等と怒ったりしたら、むしろ調査を強化して徹底的に行うべきだと思います。まさに危険な徴候だと思います。大丈夫なら、「どうぞどうぞ。いくらでも調べてください。」という態度になるはずですよね。また、担当者がプライドを失っている様子だったり業務や生活に乱れが見られるときや悪い噂なども要注意だと思います。但し、前記の通り、仕組みだけでは不祥事は防止できず人の精神や職業倫理も重要ですから、職業的プライドを毀損してしまうような対応はしないように注意が必要だと思います。「あなたのような立派な人が不正はしないでしょう。」と言われると不正をしなくなるという心理的な効果もあるようです。人の心と仕組みとの両方が働くことが必要だということを忘れないことが肝要ではないかと思います。
不祥事は大損害を生じさせることがあるので、これを防止することは後ろ向きの業務ではなくて、むしろ利益を守ることだと考えて、日々注意することが必要だと思います。
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