監査等委員会の話

大学で会社法を教えているので、気になった新聞記事について、簡単な感想をかいてみたいと思います。

令和3年6月21日の日本経済新聞(朝刊)に「監査等委 骨抜きの懸念」という記事があり、プラスチック製品製造の天馬株式会社の多数派株主が監査等委員会の取締役の選任について、監査等委員会とは対立する候補者の提案を株主提案したことの紹介がありました。

創業家が分裂したことで、取締役会の経営陣と、監査等委員会が対立している中で、経営陣と多数派株主との共闘により、監査等委員会の意向に反する候補者を議案として提案されるに至ったようです。

監査等委員は、監査役とは異なり取締役会での議決権もあり、監査を実効的に行うことができるのではないかということもあって(独立取締役増員の要請もあって)採用する企業が多いようです。監査等委員会とそれを構成する社外取締役に期待される職務として、「多数派株主から少数派株主の利益を保護すること」も含まれていたのですが、現職の監査等委員会の委員の意向を無視して、多数派株主の意向で自由に選任できるとすると、多数派株主の意向には逆らえないわけで、その職務については実効性はないのではないかとも思われますね。コーポレート・ガバナンス・コードにも少数派株主の利益に配慮すべきことがありますが、それを制度的に確保できるのかという疑問を感じさせます。

少数派株主は、株主代表訴訟などの制度により自分の力で自分の利益を守るしかない、ということでしょうか。あるいは、株式を売り抜けて離脱するか。資本の論理というのはそういうものかも知れませんが、それで完全にいいのかどうか、株式会社の資金調達や投資家保護の観点から検討が必要と思われます。

このような問題点を示唆するものとして、東京大学の加藤貴仁准教授の『支配株主と少数派株主のエージェンシー問題に関する覚書ー社外取締役などにどこまで期待できるのか?ー』という論文(論説)がインターネット上にありました。2016年11月のものです。

会社法を分かりやすく学生に教えるために、日々学び続けないといけないと思っています。その一貫として、取り急ぎですが、感想を書いてみました。

大槻経営法律事務所

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