『少数株主』牛島信著(幻冬舎文庫)を読んで考えたこと

幻冬舎文庫の牛島信著『少数株主』を読みました。

それなりに歳を取って読むとおもしろい話だと思います。高齢者の恋愛や生き様(生命の限りを感じて、意義のある人生について考えること)などもテーマとして示されています。

でも、今回お話ししたいのはその部分ではなくて、非上場の株式会社の少数株主の権利が現状のままでいいのか、というテーマです。ただ、ネタバレになるので、これから本を読む人は、以下の内容は読まない方がいいと思いますので、ご注意ください。

非上場の株式会社の株式が、創業者の相続や事業の発展に伴って、従業員や親族に分散していることがあります。そのままさらに発展して上場すれば株式を処分することが容易になるのでいいのですが、そうならない非上場の株式会社(中小会社)の少数株主の現状はかわいそうなケースもあります。

非上場の株式会社(中小企業)は、会社が利益を上げても従業員の給料や役員(これは当該会社の過半数の株式を支配する株主)のみが給料や役員報酬という形で恩恵を受けるだけです。少数株主(過半数を支払いしていないので、議決権も実効性がなく、経営に決定権がなく、経営に関与できない)は、会社によっては、配当ももらえず、給料ももらえず、株式を譲渡しようとしても買い手もなく、ただ相続の時に相続税だけが課せられるという塩漬けの状態になっていることがあります。

なお、私も、多数派株主が不当な経営を行っていると思われるケースで、そういう少数株主のために会社及び多数派株主と争う事件を担当して解決したことがあります。多数派株主側のご依頼で、防衛や経営者移行を行ったこともあります。

そうした少数株主を救うために、上記の本は、経営者(=多数派株主)に少数株主の利益を保護する経営をさせるための社外取締役の選任や、少数株主の会社に対する株式買取請求権の立法の提言などが描かれています。少数株主への配当も提言されています。

株式の買取請求は、例えば全部の株式に譲渡制限を付けている中小規模の株式会社において、合同会社の退社制度のようなものを導入しようというようなことだと思います。もしそれを導入するなら、会社債権者の保護のために、会社債権者異議手続も設ける必要があると思います。

少数株主の利益保護のための社外取締役の設置はどうでしょうか。中小企業の適正なガバナンスのために社外取締役を設置するというのは、理想論としてはとても魅力的だと思いますが、人材の確保(公認会計士や弁護士が適しているかも知れません)は難しいかも知れませんし、役員報酬も必要なので、法律で義務づけでもしなければ、中小企業がわざわざ選任するとは思われないだろうなぁというのが現実だと思います。

著者が弁護士なので、法律の範囲でアイディアが提示されているのだと思うのですが、おそらく本当に効果があるのは、税務上の節税効果を設定することではないかなぁと個人的には思います。つまり、少数株主への配当が会社や少数株主自身にとって節税効果があったり(節税にならなくても税務上優遇されたり)、少数株主の株式を買い取るときの価格の評価が(支配株式ではないので)安めに評価できたり、買取の際に課税される税金が少なく済んだりすれば、少数株主の利益を図ろうというインセンティブが働くのではないかと思います。

もちろん税金には公平性が必要ですが、政策的な観点から優遇措置を行うことも国の政策として許されるべきですし、それが現状不利益を被っている少数株主の利益を保護して、かつ、当該中小企業自身にとっても負担が重くない(むしろ得な部分もある)なら、株式支配の集約や適正な経営と少数株主の保護の両方が実現されるのではないかと思います。

問題解決のためには、広い視野を持って、いろいろな視点から考えるようにしたいと思っていますので、ちょっとした頭の体操として考えてみました。

今回はこんなところで。

大槻経営法律事務所

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